シピボ族の泥染め

シピボ族の泥染め-アマゾン屋 - アマゾン・シピボ族の泥染め
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シピボ族の泥染め-アマゾン屋 - アマゾン・シピボ族の泥染め

シピボ族の泥染めとは

南米ペルー、アンデス山脈のふもとアマゾン地域に暮らす先住民シピボ族は、樹皮を煮出した染液と、特別な泥を使って、フリーハンドの模様を染める伝統工芸「泥染め布」を今に伝えています。現在も細々と受け継がれている希少価値の高い染め物です。

白と茶の二種類あり、どちらもタンニンと鉄分の反応で黒を染める

基本的に茶色地と白地の二種類あり、全く異なる方法で模様を染めます。 どちらも樹皮に含まれるタンニン色素と特別な泥に含まれる鉄分の化合(鉄媒染)により、一瞬にして細かい模様まで黒く染まることが特徴です。

鉄分の多い特別な泥を採取するのは奥地の秘密の場所とされ、そこには聖なる泥の神が棲んでいるそうです。

シピボ族の泥染めの現状

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現地を訪れ、シピボ族と泥染めの作業を初めてみた時、「こんなに気の遠くなるような作業を…?!」と、びっくりして、感動するやら呆れるやら、それまで以上にアマゾンの泥染めの奥深さに魅了されるようになりました。1997年の最初の訪問では、水道がなかったので、泥染めを洗い流す作業は川岸で行われ、電気や水もなく、ろうそくの灯りで原始的な生活そのものでしたが、20年以上の歳月をへて町に近い先住民集落での暮らしも、民芸品のあり方も変わっていきました。

現地に行ったからといって、泥染め作業をしている風景を見ることはほとんどありません。泥染め作業は自分の家でそれぞれにやっていて、共同作業はしません。家系によるのか確かでありませんが、シピボ族の誰もがその技術を受け継いでいるわけでもなく、また、薪を集めてきて、染料を煮出し、染めて、描く、の工程は何日もかけて行うので、たまたま染めの作業に遭遇するのは難しいことです。

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シピボ族の泥染め布を売っている場所としては、地元サンフランシスコ集落や、民芸品市場以外にはほとんど扱っておらず、産地の拠点であるプカルパ市でも、首都リマでも、身近に見かける工芸ではありません。ペルー国民にさえ、本物の布を手にする機会はなく、どのように作られるのかという工程も希少価値も認識されていないのが現状です。
不法な森林伐採など、環境の変化により染料であるマホガニー樹皮も、特別な泥も、昔は家の近くで採取できたものが、最近では遠く奥地まで探しに行かなければならず、簡単には手に入らなくなりました。
その結果、奥地から運んで来る人から染料となる樹皮や特別な泥を買い取らなければなりません。素材としての木綿布も2倍に値段が上がっていて、本物思考の作り手は少数派で、シピボ族が売る泥染め布は10年前の3倍の値段です。安定したものを作れるのか買い続けられるのか私にも先が見えない状態です。

アマゾンのコットン

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もともとはアマゾン原産のコットンを栽培し、収穫し紡いで布を織って、そこに幾何学模様を染めていましたが、現在はコットンを栽培する畑もなくなり、既製品の国産木綿布生地(トクヨ)を使っており、シピボ族の泥染め布は民芸品として作られていて、日常に使う衣類などの実用品ではありません。
泥染めに使われる「トクヨ」とよばれる国産の木綿は、ざっくりした荒い織り目でとても丈夫です。木綿にナイロンが混ざっていたり、ガーゼのように織が荒すぎても模様の線が滲んでしまうし、絹のようにツルツルの表面ではフリーハンドの模様はうまく描けません。
模様を描くための道具は棒きれのようなもので、屋根材のヤシの葉の茎の部分を使っています。硬ければ硬いほど細い線が綺麗に描けます。使いやすいようにナイフで平たく加工して、太い線と細い線を使い分けて描きます。
※写真はアマゾン原産の毛が長い種の綿

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アヤワスカと泥染め布のデザイン

シピボ族の集落は、もともとシャーマン文化の残る地でもあり、近年は特に外国人の若者の関心を集め、アヤワスカという薬草を使った儀式や、それによる精神病の治療効果なども注目されています。その流れに合わせ、泥染め布にはアヤワスカをモチーフにしたデザインが描かれるようになり、最近ではアヤワスカの儀式の際に現れるビジョンを投影する、カラフルで幻想的な色とりどりの刺繍が施された大判の布が主流になっています。特に、アヤワスカのビジョンに登場する、アマゾン河の聖なる母とするアナコンダ蛇がモチーフになっているものなど、刺繍の配色感覚などはシピボ族ならではの、まさに神秘の芸術作品です。

シピボ族の泥染めの模様の意味

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よく、シピボ族の泥染めに描かれる幾何学模様の意味について尋ねられます。私が作り手の何人もの女性達から聞いていていることは、
「天から降りてくる模様を描いているだけ」「模様の意味は何も考えていない」とのこと。 また、デザインを描く能力を高めるために、幼少の頃からピリピリという薬草を目薬にしてさし続けなければならないと信じられています。
布の模様をみると、全体は小宇宙のようにも見え、ひとつひとつのパーツには、蛇、ピラニアの歯、亀の甲羅、南十字星のような、自然の中にある身近なモチーフからデザインされているようにも思えます。シピボ族による神秘的な潜在能力によって精神世界を描いているとも言われていますが、模様の意味について色々な説があり、研究している人も増えているようです。

茶と白で異なる制作工程

茶色:茶色の染料で布を染めた後に、泥でデザインを描き、最後に泥は洗い流します。
白地:茶色の染料でデザインを描いた上から布全面に泥を付け、模様だけが染まり、泥は最後に洗い流します。

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茶色地の泥染め

強烈な陽射し

アマゾンの泥染めの茶色は、森の恵である木の樹皮を煮出したタンニン色素の染液と、灼熱の太陽の陽射しの下で天日干しすることにより生まれる特別な茶色です。
そこにフリーハンドで描く模様の線が漆黒に反応して染まるのは、奥地で採取される「神聖な泥」に豊富な鉄分を含んでいるからでしょう。

日本でよく知られている奄美大島の泥染めも、樹木のタンニンと泥の鉄分で染めて干すを繰り返すことで美しい黒を染めますが、アマゾンの泥染めは、泥を一度つけただけで真っ黒になるので、泥の鉄分の強さが違うのかもしれません。また、茶染めのタンニンは柿渋と同様で、防虫効果もあります。

茶色の泥染め工程

大鍋でマホガニーなどの樹皮を煮出してたっぷりの染液をとり、綿布を染めます。
染めては干すを7回から10回ほど繰り返し、強い太陽の下で濃い茶色に綿布が染まります。そこに短い棒きれで泥をつけながら、生地に押し付けるように模様を描くと、茶の染料に含まれるタンニンと泥に含まれる鉄分の化合によって模様だけが黒く発色します。泥で模様を描いたら天日で乾かし、最後に流水で表面の泥をブラシで洗い流せば、茶色地に黒の模様が残り美しい布が完成します。

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白地の泥染め

秘密の場所から採取する「神聖な泥」

白地に模様を描く時の染液は、タンニンを含む5種類の樹皮を大鍋で煮て、半分くらいまで煮詰め、この染液で模様を描きます。白地の場合、一見白布に黒い液で模様を描いただけのように思われそうですが、 実際にはそうではなく、茶色の濃縮染液で模様を描いた上から布全面に泥を塗りつけ、タンニン色素と泥の鉄分が結合することにより模様の部分のみが黒く発色します。細い線までが一瞬で黒く染まるのは、アマゾンの泥にとても強い鉄分を含んでいるからだと思われ、樹皮の濃縮した染液に含まれるタンニンの濃度によっても黒の色は深く変化するのです。

白の泥染め工程

模様を描いて十分に乾かしてから、特別な泥をよく溶かしたものに漬け込むか、布を広げて模様の上から満遍なく泥を塗り付けると、タンニンと鉄の化合により茶色で描いた模様の部分が一瞬で黒く変化します。最後に全体にめり込んだ泥の細かい粒子まで、ブラシを使って流水で洗い流します。

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