シピボ族との出会いは私がペルーに住み始めて間もない頃(1997)のことで、リマの街中で行商に来ていたシピボ族の女性から一枚の不思議な布を買い、それがどんな風に作られるのかを自分の目で確かめたくて、シピボ族の先住民集落を訪ねて行ったことが長い付き合いの始まりです。
そこで泥染めの作業を見た時、小さな棒で泥をすくいながら模様を描いていく、気が遠くなるような手仕事に、ぎょっとするほど驚き、最後に泥を洗い流すと美しい模様が染まる工程を見て、「説明がないと価値が伝わらない!」と感じ、このときから「アマゾンの泥染めを伝えよう」という使命感を持ちました。
当時の電気も水道もない原始的な暮らしにも衝撃を受けましたが、森に生き、野性的な知恵と本能を備え持つ先住民族という存在に敬意を感じるようになり、同時に、町に近いこの先住民集落の人々の生活が、これからどう変わるのか興味を持ちました。
初めてシピボ族の村を訪れた時の、驚きと感動の記録はこちらをご覧ください!
(ブログ「アマゾン屋だより」)
https://plaza.rakuten.co.jp/amazonya/diary/201711060000/
シピボ族と知りあってから最初の10年は、ただ、シピボ族の家族を助けるつもりで布を買取っていただけでした。だんだん布が増えていき、私のお小遣いもなくなるし、この先はどうしたものかと悶々と悩む日々でした。最初は手書きで「アマゾンの泥染め工程」のパンフレットを作り、詳しい情報を伝えるためにホームページも時間をかけて作りました。もともと大判サイズの布しかなかったので、使いやすいコースターサイズやクッションのサイズを作ってもらうようになりました。
出会いから10年後。日本に一時帰国した際に、あるイベントに参加するための屋号が必要になり「アマゾン屋」と名付けました。その後ペルー自宅のスペースで自分が作った泥染めバッグを並べて展示してみたところ、布よりも実用的な泥染めバッグの需要があり、「泥染めバッグを販売しその資金で布を買う」という自転車操業の「アマゾン屋」が生まれました。
ペルーに住んでいた間のお客様は、口コミや紹介で来てくださる駐在の奥様方と在住者のお友達で、とても狭い世界でした。自宅の玄関部分をショースペースにして気軽に遊びにきて頂き、手作りバッグのオーダーを受けたり、お茶会を催したりする憩いの場にもなりました。
ペルーではシピボ族が家に頻繁に滞在していたので、その期間を利用してよく「泥染め実演会・体験・販売会」を催し、フリーハンドで模様を描くところを見たり、自分が木の棒を使って描く作業を体験することで、シピボ族の泥染め布の価値をより理解してもらえました。多くのお客さんから「少しでもシピボ族の力になれれば」と応援して頂き、お買い物してもらった「シピボ資金」は今も生きています。
おそらく自分は、商売のためだけならば続けられないし、彼らと親しくなり、支えたい気持ちだけでやっているのかもしれません。
まず「ペルーってどこ?」と言われて、自分自身が認識のズレを受け入れる必要がありました。自分が外側に住んでいると分からないもので、これまで気にもしていなかった、大きな壁と向き合うことになりました。相手によって、何をどこからどこまで説明したら良いのやら、分からなくなってしまうのでした。20年ぶりに日本に住むと、知らないことも多く、色々と新鮮で、最近まで自分が外国人のようなふわふわした感覚でした。やっと周りのことが見えてきたばかりでです。
日本にはもともと素晴らしい伝統工芸があり、手仕事の温もりを愛し価値を正しく評価する人が多く、布を生活の中で上手に生かす文化があります。外国の珍しい工芸もなんでも手に入り、素敵なもので溢れかえっていますが、妥協のない良いものであれば直感的に価値を理解してもらえる土壌があると感じます。
アマゾン屋の望みは、シピボ族の泥染めが注目されブームになることよりも、本質を分かる方々に魅力がちゃんと伝わり、求めている人のところへそっと届くように、時間をかけて知ってもらうことです。そして誰かの日常の中で、この布が癒しとなり、生活の中に自然と溶け込んでいけるような、それを実感してくれる泥染めファンが少しずつ増えることです。焦らずに、今できることを地道にやっていこうと思います。
日本ではリマと同じように自宅をお店にすることは難しく、やってみようとはしたもののお客さんを招くことはなかなか出来ません。けれど、やはり理想は自宅+工房+ショップです。泥染めバッグのオーダーをしたい、直接布を見て選びたい、という場合は、下記メールアドレスまでお気軽にご相談ください。
amazon.aya@gmail.com
「オーダーメイドの泥染めバッグ」は材料となる布自体もオリジナル素材であることが多く、全てが一点ものなので、同じものはどこにもありません。
バッグの形だけでなく持ち手の太さや長さ、ポケットのサイズなど、細かくリクエストして頂けます。泥染めクッションも同様に、サイズや布のご希望によって相談しながら仕上げます。
実店舗があったとしても布を一枚一枚広げて展示することは難しく、オンラインショップで沢山の種類を画像で見られるようにすることが、最も理想的なのだと考え、地道に商品登録を重ねています。シピボ族の布コレクションとしてはおそらく類のない品数になりますので、是非一度ご覧ください。
イベント出店や展示会をするときにはお知らせいたします。
アマゾン屋では泥染め布の作り手であるシピボ族と直接やりとりできることが特徴です。これまでに、シピボ族のパートナーの協力により、沢山のアイデアと可能性が生まれました。
もともとは泥染めバッグを作る際に、模様の美しい大きい布をカットするのがもったいなくて、バッグ用には泥染めや刺繍の組み合わせで小型布を特注するようになりました。希望通りに出来ないことが多く、回り道ばかりでしたが、泥染め布の新たな可能性を見つけることが楽しくて、飽きることはなく、これまで続けることができました。
インテリアとして生活の中に取り入れられるように、コースター、ポットマット、カフェマット、クッションカバー、テーブルセンター、テーブルランナーなど、サイズを指示して様々なサイズを作っています。
始まりはシピボ族が失敗作と言って持ってきた紫色でした。茶色と白以外の色は、タンニンと鉄分の濃度によって偶然に生まれる貴重な色です。 偶然が生み出すアースカラーは、唯一無二の一枚です。(墨色・紫・ピンク・ベージュ・グレー等)
最初は作業の途中の状態を見せるためでしたが、細かい模様の部分を全て埋めずに所々をわざと空白にすると、アクセントになり新鮮なデザインが生まれました。カラフルな黄色(パリージョ)と赤(アチョテ)で色付け、古布を再現しました。
使うサイズに合わせて一枚ずつの片隅にワンポイントの泥染めを入れて、小さな枠に刺繍をしたA4サイズの素材です。パッチワークで刺繍を後付けしたと思われがちですが、一枚布の気づかない部分に手間をかけています。
フリーハンドの泥染め模様を、荒い帆布の生地に綺麗に描き染めることができたことは、画期的なことでした。帆布バッグは大変丈夫で、バックのサイズに裁断してから模様を入れているので、ひとつひとつのバッグは模様が違います。
泥がついたままの模様で、作業工程を身近で見ているからこそ抜き出せた美しい状態です。茶色地に泥で模様を描いて乾かすと泥が白っぽくなり、茶染めとのコントラストがとても美しく、額装がおすすめですが洗えば布としても使えます。
シピボ族の人々との付き合いを通じて、私は「自分の常識は全ての常識じゃない」ということが身に染みました。彼らにとって何が幸せなのか、何を望むのか、どこへ向かって行けば良いのか、私には分かりません。ただ、彼らが美しい泥染めを作り続けるうちは、できる限り支え、ずっと見守っていきたいと思っています。